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編集長のブログ

2012年の初読書


近年こんなに夢中になって読んだ本はない。

それはまるで薄ぼんやりしていた草むらに、雲間から一条の光が差し込み、そこだけ色彩を持った花々が目に飛び込んできたかのような体験であった。

この稀有の本は、グレアム・ファーメロ著『量子の海、ディラックの深淵』(吉田三知世訳・2010年9月/早川書房刊)である。原註も含めて620ページの大著であるが、読み始めてすぐに引き込まれた。著者自身が理論物理学者であり、ロンドン科学博物館主任研究員でもある。しかし文章は難解ではなく丹念な取材に基づいた事実の上に構築されていて著者自身の解釈がまったく邪魔にならない。

31歳でノーベル物理学賞を受賞したディラックは「反物質」の存在を予言し、「ディラックのデルタ関数」などで知られているが、アインシュタインやシュレーディンガーなどに比べると日本ではほとんど知られていない。

これはまさに「人間の深淵」を描いた類稀なドキュメントだ。人は同じ時代や同じ国、あるいは同じような環境に暮したとしても同じようには成長しない。経験する事柄は同じようなものであったとしても、個性(感受性や理解力)によって経験する物事の解釈は天と地ほども変わってくる。もし共有できるものがあるとすれば幾ばくかの愛惜と郷愁であろう。私には、「人間」そのものの多様な存在の形式の大事な事柄ついては、哲学の分野においても、心理学の分野においてもまだとても解明されているとも思えない。すぐれた文学はその一端を知らせてくれるし、真摯な哲学者も何らかのヒントは与えてくれる。しかしまず個々人が自分に与えられた「生そのものの体験」のなかで、それをどのように「経験」し「身につけ」、「考えて」いくかという大事なことがまるでおざなりにされているとしか思えない。「私」というプリズムがその事柄に何故そのように反能してしまうのか。それは例え本人といえども一様ではなく、そこに「考えることのできる生の醍醐味」があるとも言える。

私は一時期理論物理学者になりたいと思ったほど数学が大好きであった。中学・高校でも幾何や代数はほとんど勉強しなくてもすぐに理解できたし、何々の定理なども苦もなく覚えられた。苦手なのは丸暗記させられる科目で、それがために当時の学校の授業には何の面白味も感じられず、結局卒業までの時間を持て余し学校を辞めた。

だから時々「数学関係」の本に興味をそそられることがある。小川洋子さんの作品が好きなのも資質の類似性があるのだろうと感じる。

「量子」というと難しそうだが、理解すればそれほどのこともない。ディラックによれば数学は元々自然のなかにあったものを定式化しているに過ぎないと述べている。学問の大半はそうであろうと思う。ただ数学は技術に結びつき、「核分裂」まで導き出し、ついには「原子爆弾」まで製造し、多くの人を殺戮する戦争の道具となった。ディラックの若き日からの友人であるオッペンハイマーは、アメリカのマッハッタン計画の責任者であったが、

後々まで自分の両手が血に汚れていると感じていた。現在でも数学者にとってその状況は変っていない。人間はまだ「幼年期を克服」せず、このまま滅びてしまう可能性を抱えている。別に「核兵器」の問題だけではない、他のあらゆることにおいても。


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